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「五輪の舞台で、13年越しの連覇を達成
ソフトボール女子日本代表が挑んだコロナ禍でも負けない身体づくり」

公益財団法人日本ソフトボール協会

ソフトボール女子TOP日本代表

新型コロナウイルスの影響で、一年間の延期を経て開催された東京2020オリンピック。アスリートたちはそれをどのように受け止め、トレーニングに励んでいたのか。東京2020オリンピックで、宿敵アメリカを破り、13年越しの連覇を達成したソフトボール女子日本代表メンバーの中から、山田恵里選手、川畑瞳選手(以上、デンソーブライトペガサス)、山本優選手、内藤実穂選手(以上、ビックカメラ高崎BEEQUEEN ※山本選手は2021年で退団)と、代表チームでもトレーナーを務める村上純一氏(デンソー)、志村昌彦氏(ビックカメラ)に、今回の経験で印象に残っていることや、日頃、身体づくりで気をつけていることなどを聞いた。

ソフトボール女子TOP日本代表
写真=奥富義昭・椋尾詩 インタビュー・文=石川遍 2021/11/24

すべては13年越しの五輪連覇を成し遂げるために

「13年分の、そして大勢の人たちの思いを背負っていたので、とにかく重みが違いました」
そう振り返るのは、2008年の北京オリンピックに引き続き、東京オリンピックでも代表チームのキャプテンを務めた山田恵里選手だ。
今回のオリンピックで最も印象に残っているのは、自分のプレーでも、試合の結果でもなく、応援してくれた大勢の人たちの存在だったという。
「試合は無観客で行われましたが、どの球場でも、大勢のボランティアの人たちが、私たちの乗ったバスを拍手で迎えてくれて、それらの光景が今でも脳裏に焼き付いています」と山田選手は続ける。
一方、今回が代表初選出だった川畑瞳選手は、「始まるまでがとにかくキツかったので、オリンピックの一週間はあっという間に終わった印象です。自分としては、今、持っている力をすべて出し切ることができて満足しています」と感想を話してくれた。
2008年の北京大会を最後に正式種目から除外されていたソフトボールが、「開催都市による追加競技の提案」によって復帰することになったのは2016年のこと。日本代表はすぐに本格始動し、相手チームの研究、自分たちのソフトボールのレベルアップ、そしてケガをしない身体づくりと、ありとあらゆる準備を行ってきた。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、東京オリンピックは1年程度の延期が決定。
ソフトボールはリーグ戦も中止になり、選手たちはそれぞれの所属チームが決めた行動制限下での活動を余儀なくされた。行動制限は地域や企業によって差も大きかったが、山田選手、川畑選手が所属するデンソーは、緊急事態宣言が出た地域にあったため、長らく自主練習しかできない状況が続き、選手たちの運動強度はかなり落ちていたという。
山田選手に聞くと、チーム練習再開後は急にスピードをあげるのが怖く、100%の力を出せるまでには相当時間がかかったそうだ。もともとあまりケアに時間を割くタイプではなかったそうだが、延期が決まってからの一年間は、常に自分の身体の状態を意識し、トレーニング、休養、栄養、どれも疎かにしないように心がけたという。

村上純一(むらかみ じゅんいち)
1978年生まれ 兵庫県出身。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師。
複数の病院・クリニックのリハビリテーション科に勤務した後、大学や実業団などでトレーナーを務める。2012年よりデンソー女子ソフトボール部の専属トレーナー。2016年より女子ソフトボール日本代表トレーナーを兼務。

日本代表トレーナーを務める村上純一氏も、「合宿が再開された後も再び中止になったりして、結局、最後まで手探りの状態は続きましたが、選手も、自分たちスタッフも、とにかく今、できることに一生懸命取り組みました。
それは大会に入ってからも同じで、選手がスムーズに身体を動かせるために何ができるか、本当にそれだけを考える一週間でした」と話す。横浜スタジアムで行われた決勝戦でアメリカを倒したのは、まさにそうした努力が実った瞬間だった。
緊急事態宣言下での無観客開催。とにかく今回のオリンピックは何もかもが異例だった。
山田選手と同じく、北京オリンピックを経験している山本優選手は、「いつもは陽気で明るい海外の選手たちが揃って皆、緊張した表情をしていたのが印象的でした」と今大会の感想を話してくれた。一方で、自国開催のプレッシャーでいつも以上に緊張すると予想されていた日本代表は、いざ大会が始まってみると、意外にも普段どおりのテンションを保つことができていたそうだ。

身体づくりのヒントは自分の身体が教えてくれる

まさにそのことを証明するかのように、開幕戦のオーストラリア戦で大会第一号となる本塁打をマークした内藤実穂選手は、「自分はずっと開催されると信じて、一日一日、トレーニングを積み重ねていました。身体のケアも栄養管理も常にオリンピックに向けてできることは何だろうと考えながら実践していたので、大変だったというより、成長できた部分が大きいと感じています」と話す。
「自分に関して言えば、気持ちだけは切らさないでいようと、いつも以上にメンタル面の不調には気を配っていました。そういうことも功を奏したのかもしれません」と山本選手も続ける。ただ身体づくりに関しては、練習のしすぎで鵞足炎になってしまい、改めて、無理をしないことの大切さを学んだという。
「どちらかというともともとは無理をしてしまうタイプ。『これ以上やるとダメ』と止めるトレーナーさんと、自分たちには目標があるんだといってぶつかったこともありました。でも結局、ケガをしたあと面倒をみてくれるのもトレーナーさんたちなので、少なくともケガをして以降は、練習中に無理して飛ぶことはなくなりました」(山本選手)
そんな山本選手に、ベテランになって身体づくりに変化はあったかと聞いたところ、「変わらず、当たり前のことをやっているだけ。みなさんが仕事をする上でいろいろ準備をするのと同じです」と答えが返ってきた。年齢を重ねるごとにストレッチの時間は増えてきたが、山本選手の場合、それはただ身体のためというより、むしろ心の準備をしている時間なのだそう。

#11 山田恵里
デンソー女子ソフトボール部 ブライトペガサス所属 外野手/左投左打

#10 川畑瞳
デンソー女子ソフトボール部 ブライトペガサス所属 内野手/右投左打

ベテラン選手の身体づくりといえば、デンソーの山田選手も若い頃はケアがそんなに好きではなかったという。身体が柔らかくなりすぎるのを嫌ってのことだったが、20代の終わり頃から少しずつケガをする機会が増え、ケアの時間を増やした結果、今度はトレーニングとのバランスを崩してしまったそうだ。
「最初にも言いましたが、トレーニングと休養はバランスが大事。年齢を重ねたらケアも増やすというのは単純すぎる気がします。自分の身体を知って、それに合ったケアを見つけることが重要です」(山田選手)
トレーナーの二人によると、特に代表チームには、自分の身体のことをよくわかっている選手が多いとのこと。自分の身体と対話することができ、不調があればすぐに察知して、トレーナーに相談してくれるのでとても仕事がしやすいそうだ。
その凄さがよく分かる一つのシーンが、物理療法機器を使ってケアをするときだという。

志村昌彦(しむら あきひこ)
1983年生まれ 静岡県出身 柔道整復師。
2012年よりビックカメラ高崎女子ソフトボール部のトレーナーを務める。
2014年より女子ソフトボール日本代表トレーナーを兼務。

「反応の良さにはいつも驚かされています。『ここに超音波をあてたら可動域がこれだけ広がった』と、得られた効果を正しく把握する能力も高い。さすがだなと思いますね」(志村トレーナー)
ちなみに今回のオリンピックでは、ハイボルテージ電流治療器と超音波治療器が選手たちの活躍をサポートしたそうだ。
ハイボルテージは主に筋緊張の緩和に。超音波に関しては、デッドボールや自打球など、打撲が多い競技なので、腫れや内出血を抑えるために使っているという。
「超音波をあてると、漏出した血液が吸収されるスピードが格段にあがります。放置すると可動域を制限することになるので、特にオリンピックのような短期決戦ではとても頼りになる存在です」(村上トレーナー)

#5 山本優
ビックカメラ女子ソフトボール部 高崎BEE QUEEN所属 内野手/右投右打

#14 内藤実穂
ビックカメラ女子ソフトボール部 高崎BEE QUEEN所属 内野手/右投右打

「一度、その効果を知ってしまったので、いまは超音波治療器がないときのショックが大きい」と山本選手は笑う。
一時は開催すら危ぶまれた東京2020オリンピック。様々な重圧がのしかかる中で、ソフトボール女子日本代表は、サポートスタッフも含め、一人ひとりがやるべきことをやり、そして、多くの声なき応援を得て、悲願の2連覇を達成した。
「大会が終わってから、リーグ戦を観に来てくれるお客さんがすごく増えて、やっぱりオリンピックはすごいなと改めて感じました」と山本選手は話す。思わぬ伏兵の活躍で劇的な勝利を手にしたりと、スター選手だけが輝くわけではないところもソフトボールの魅力だという。初めてソフトボールを観たという人たちにそんなソフトボールの魅力をもっと知ってもらいたい、そんな風に今は考えているそうだ。
内藤選手も「塁間が短い分、一つのファンブルが命取りになるので緊張感もあるし、スピード感などは野球よりも感じられるはずです」と、その魅力を説明してくれた。ソフトボールにはキャッチャーからボールが返されたあと20秒以内に投球しなければならないというルールがあるが、限られた時間内で繰り広げられる駆け引きにも注目してほしいとのこと。自分自身については、オリンピックのおかげでスタジアムでの声援や歓声が増えて嬉しいと笑いながら語ってくれた。

ソフトボールの魅力を発信し、7年後の五輪復活を目指す

「オリンピックで金メダルをとったことで、ソフトボールへの注目は以前より高まっているはず。自分は次世代を担う子どもたちに、競技としての魅力や楽しさを伝えていきたいと考えています」と川畑選手も続ける。
残念ながら次回のパリ五輪では、ソフトボールは再び、五輪種目から除外されることが決まっている。13年越しの連覇を、ソフトボール女子日本代表は未来にどう繋げていくのか。最後に山田選手に思いを語ってもらった。
「2028年のロサンゼルス五輪にまた復活させるために自分には何ができるのか。選手としてどこまでやれるかはわかりませんが、コロナ禍の1年と同じように、その場その場でできることをやるしかないので、皆も話していたような外へ向けた発信も含めて、ソフトボールを盛り上げるための活動をこれからも続けていきたいです」

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(そふとぼーるじょしとっぷにほんだいひょう)

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