将来的には患者様自身でWILMOを操作し、 在宅で治療できることを期待しています。
– WILMOにはどういった技術が盛り込まれているのでしょうか。
複数のメーカーにより製品化された随意運動介助電気刺激装置は、IVES(アイビス)療法として普及、浸透していきました。IVES療法とは脳卒中等の片麻痺患者様の弱い筋電を検出し、それに比例した電気刺激を与えて随意運動をアシストする治療法です。治療を継続することで最初は電気刺激によるアシストを必要としていた動作が少しずつ手の動かし方を覚えることで、最終的には装置がなくても自分自身で動かすことが可能になります。これまで製品化されたIVES療法の装置は本体の厚みがあり大きく、設定操作には慣れが必要でした。そこで患者様が自然な感覚で装着しコンパクトで袖の中に納まる厚さであれば、外からも目立たない治療器ができるのではないかと考えました。苦労の甲斐あって、薄型を実現できる新電気刺激回路の技術を発明し、WILMOに盛り込んでいます。
– 機能をシンプルにされた理由をお聞かせください。
大きく二つの機能をシンプルにしています。ひとつは電極を簡単に最適な位置に調整できます。電極は電気刺激による筋収縮を慎重に確認しながら位置を決定することが重要です。しかし、従来の電極では何回も電極を貼り直して、位置を調整しているうちに、電極の表面に皮膚の角質が付着し同じ電気刺激に対する筋収縮が変化してしまい、最適位置が分からなくなる問題などがありました。この問題を解消するため、今回の多電極列シート(電極パッド)を考案しました。この構造により、電極パッドを一回貼り付けた後、剥がすことなしに電極位置を簡単に変更でき、設定時間が大幅に短縮されました。
もうひとつはシンプルな設定操作で使用できます。従来の装置には設定値のメモリー機能がありましたが、前回と同じように使用しても日々、電極や皮膚の状態などにより最適な設定が変化する場合があり、メモリーに保存されていた値が正しくなくなる可能性があります。
そこで全く逆の発想で、毎回最適な設定値が変わることを前提とし、このメモリー機能をなくしシンプルに3段階のみの設定で、患者様自身でも慣れれば1分以内で最適な設定ができる機能を実現しました。つまり、WILMOはコンパクトで薄いボディ、マグネット式多電極シートで電極位置を簡単に調整可能、メモリー機能が無くとも簡単な操作で最適設定が可能、という3点の大きな特徴を持っています。
– 開発経緯、苦労話をお聞かせください。
開発10年を経て、2008年に初めてIVES療法を具現化できる機器が販売され、その時に私は村山医療センターに移りましたが、更に袖の中に納まるように薄くコンパクトにする為にはどうしたら良いか、ずっと考えてきました。
– 開発した当時のものを見せていただきました。
この回路が完成するまで試作品に実験を重ね何度も作り直し執念で完成に漕ぎつけました。回路が完成しても集積させたことでノイズが発生し、また始めからやり直し作成することの繰り返しで大変でした。この研究成果で2010年に厚生労働大臣認定TLO(公財)ヒューマンサイエンス振興財団経由で特許を取得し、更に米国、中国でも取得しています。
– WILMOの将来展望は?
将来的には患者様自身でWILMOを操作し在宅で治療できることを期待しています。病院から早期退院することで医療費の削減にも繋がりますし、在宅で家族と一緒に過ごせる時間が増えたりすることは、患者様だけでなく社会全体に良いことではないでしょうか?これまで随意運動介助電気刺激装置はIVES療法として浸透していきましたが、WILMOのウェアラブル(Wearable)という特徴を強調しWをつけWIVES療法(ワイビス療法)と名付けたいと思います。一日6時間以上装着可能なWIVES療法として唯一の治療機器はWILMOしかない位置付けにし、さらに、WASEDAのWを付ける事で今後は早稲田大学としても本治療法の発展に貢献したいと思います。
【 お話を伺った方 】
WILMO開発者 村岡 慶裕 先生
・独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部)生体機能制御解析室 非常勤研究員
・早稲田大学 人間科学学術院 教授
1998年に手関節装具を併用したタイプのIVES療法を思いつき、そのための装置を開発、2008年に製品化。これまで上肢痙性抑制装具、装着型歩行補助装置WPAL、免荷式スプリングハンガー、簡易歩行分析システム、簡易EMG-BF装置、痙性評価装置などの開発や事業化、臨床神経科学、バイオメカニクスなどの研究に従事。
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