4章 6.アイソキネティックの利点と弱点
等速性収縮(Isokinetic Contraction 、アイソキネティック収縮)
等速性:アイソキネティックの条件は下記のようになります。
速度(動き) : 一定 ・・・(設定した速度は変化しないので“一定”)
抵抗(負荷) : 可変 ・・・(押す力=抵抗は一定せず“可変”)
等速性収縮の特徴は等張性収縮と等尺性収縮の両方の特性を上手く組み合わせたものです。また現在のバイオデックス システムではこれら全ての運動、収縮モードが可能となっています。さまざまなトレーニング効果に関する研究論文が世界中で数多く発表されています。ここでは基本的な特性に関する部分のみご紹介します。
トレーニング効果や効率から見た利点
* 運動速度を低速度から高速度まで任意に設定した条件でトレーニングができます。
* 短縮性、伸張性の(往復運動中にどちらかのみ、もしくは両方組み合わせての)トレーニングができます。
* 自分が出力した力とほぼ等しい抵抗が得られるため、無理のないトレーニングとなり、また最大努力を行えば最大抵抗によるトレーニングができます。
* 筋出力途中で筋力を緩めると抵抗も無くなることで痛みや違和感がある領域に無理な抵抗を受けません。
* 筋疲労が起きても可動域をほぼ保ったままでの繰り返し動作を続けることが可能です。
* 関節運動中に変化する「筋力に適応した抵抗=トルク」が得られるため全可動域にわたって効率の高いトレーニングができます。
トレーニング効果から見た弱点
* 等速制御が可能な機器が必須となります。
* 設定速度に追従できなければ抵抗がほぼ得られない状態になります。(設定速度を下げれば利用可能です)
* 高速度設定において動作開始後の等速度設定状態になる瞬間に加速度変動によって衝撃を受ける場合があります。
アイソキネティック理論の登場
疾病や傷害からの回復に欠かすことのできない運動療法にとって、最も関係の深い「筋力増強」方法を探ることは最大の課題でした。
1960年代頃までの筋力増強の研究では、
* 筋力増強のためには、筋力を日常使っている程度以上に発揮するような抵抗を与えてトレーニングする必要がある。
(オーバーロードの原則)
* 筋力増強のためには最大抵抗を与えてトレーニングすることが最も効果的である。
* アイソメトリックは最大抵抗を与えることができる(唯一の)トレーニングである。
* アイソメトリックは関節の動きが全く無いことが最大の弱点である。
* アイソトニックは低速度から高速度まで運動速度を選択してトレーニングができる。
などが結果として報告され、実践されていました。
1960年代中頃、ニューヨーク大学整形外科学教室のローマン教授等の医師達は、大手電気関連企業のTechnicon Corporation(テクニコン社)の技術者と共同で研究し、自動制御技術を応用した装置を開発し、「入力桿(カン) =回転アームを、弱い力で押しても強い力で押しても、入力桿は設定した一定速度以上では回転せず、押さなければ入力桿は回転しない」という、日常には無い状態を作り出すことに成功しました。
入力桿を設定した速度以上に速く押そうとしても入力桿は一定速度でしか動かないため、押せば押すほど抵抗(反力)がかかり、筋に負荷(抵抗)がかかります。最大の力で押せば最大の抵抗を受けるため、筋に最大負荷(抵抗)がかかるわけです。
まさしく、アイソメトリックの欠点である“動かない状態を解消し”動作中にアイソメトリックの特長である“最大の抵抗を筋に負荷する”状況を実現したのです。しかも速度は自由に設定でき、その設定速度毎に最大抵抗を筋に負荷することを可能にし、アイソトニックの特長である「遅い速度から早い速度まで広範囲の速度」でのトレーニングと同じように、速度に対応したトレーニングを可能にしたのです。
アイソキネティックマシン CYBEXⅡ(サイベックスⅡ)の誕生
CYBEXⅡ 日本発売(1973年当時)モデル
“アイソキネティックの状態は日常には無い人為的に作られた状態である”というものですが、アイソキネティックを世の中に広めるためにテクニコン社は、どのような負荷がかかろうと設定された一定速度で回転するというマシンの名を、人間工学から取り入れ、Cybernetics Exercise Machine(サイバネティック エクササイズ マシン)を語源に「CYBEX」と命名しました。
その後まもなく、リハビリテーション機器の大手メーカーであるLumex,Inc.,(ルーメックス社)が特許を取得し、ニューヨーク大学整形外科教室のLowman先生などの協力のもとに改良を重ね、1970年~1971年にかけて「CYBEX Ⅱ」を開発し、「アイソキネティックの概念」を世界に発信しました。
日本では、当時ニューヨーク大学に留学されていた大井淑雄先生(後の自治医科大学 整形外科学教授)の紹介により、1972年に住友商事株式会社と当社が提携してルーメックス社の販売代理店となり、「アイソキネティックの概念」を日本国内に発信を開始し、翌1973年にCYBEX Ⅱを発売しました。
現在では、アイソキネティックの日本語訳としては「速度が一定」と言う条件から「等速性」が主流になっています。当社が日本で情報発信し始めた頃は、「kinetic」の日本語訳は、“運動の、運動に関する”であること、「速度が一定と言うことは加速度が「0」であるため運動量が重要である・・・」などの考えから、「等運動性」に統一し、最初のカタログでも「等運動性」を使用しました。その後、アイソメトリック、アイソトニックと並べて筋活動を説明する中では「一定速度」と言う運動条件がクローズアップされたことと、「等速性」の方が動作原理を理解しやすいこともあったため、近年では殆ど「等速性」が使用されています。
アイソキネティックよる筋力トレーニングと評価
ORTHOTRON(写真左)とFITRON(写真右)
アイソキネティックは筋力増強トレーニングの研究から生まれた概念といわれていますが、BIODEX SYSTEM4などのいわゆるアイソキネティックマシンは現在「筋力評価システム」として捉えられていることが多い様です。
ルーメックス社では、改良を重ねる中でトレーニング負荷としてのアイソキネティックの利用というだけではなく、同時に筋力測定機能(レコーダー機能)も追加した「CYBEXⅡプラス」を開発しました。併せて油圧にて等速度制御を可能にした単関節中心の筋力トレーニング専用機器「ORTHOTRON(オルソトロン)」と、起立・歩行トレーニング専用「KINETRON(キネトロン)」も同時に発売しました。
その後アイソキネティックエルゴメーター「FITRON(フィットロン)」も追加発売しています。
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多用途筋機能評価運動装置
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