4. 痛みの閾値変化(過敏)
1.中枢性痛覚過敏(central senstization)
C線維の末梢からの頻回な刺激が持続すると,脊髄ニューロンにも変化が起ってくる.これはwind upという現象で,ニューロンは末梢からの刺激に対し一対一で対応していたものが,一回の刺激によりたくさんの発火を起こすようになり,ついには刺激を止めても発火活動がしばらく続くようになる.この様な現象は中枢性痛覚過敏,中枢性の感作とも呼ばれている.
この中枢性痛覚過敏のメカニズムの一つとして,NMDA受容器が関係しているとされている.頻回な刺激入力により,細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し,マグネシウムイオンが外れてチャンネルが開通状態となり,少しのNMDA受容体刺激でも大量のカルシウムイオンが細胞内に流れ込むようになる(活性状態のNMDA受容体).すなわち,信号の増幅が起こり,暫くの間持続する.このwind up減少は,NMDA拮抗薬によって抑制が可能とされている.
さらにwind upが長く続くと,脊髄ニューロンの中で痛み刺激による脊髄後角における遺伝子発現の活性化指標として用いられている興奮マーカーであるc-fos等の転写因子発現が増加してくる.転写因子の発現増加は,シグナル伝達による疼痛メディエーターを増幅することで脊髄ニューロンに可塑的な変化を起こしてくる.一旦wind upが生じると,外力を取り去ってもなお歪みが残ってニューロンの興奮が長引く.c-fosの発現は,モルヒネによって抑制することが出来る.
2.末梢性痛覚過敏(peripheral sensitization)
神経末梢は痛みを受容するばかりでなく,軸索反射によりそこからサブスタンスPなどの化学物質を分泌する.これは,肥満細胞に作用してヒスタミンを遊離したり血管拡張を起したりする.さらに組織が損傷されると,プロスタグランジンをはじめ,カリウムやブラジキニンなどいろいろの発痛物質が出てくるので,神経末端は発痛物質の中に浸されているような状態になり,神経の痛みに対する感受性は著しく高まる.この様な状態を末梢性痛覚過敏,末梢性の感作とも呼ばれている.